『RIP』について。④撮影

【4.撮影・自作褒め】

前の章に書いたように非常にいい加減なメモしか書かず撮影に入りましたが、それために出演者にとにかく甘え倒しました。

とはいえ、僕は気に入っています。


僕は暇&自己顕示欲の塊なので、誰が読むのかわからないココで、虚空に向け、できるだけ自画自賛させてもらいます。


冒頭の旅行会社のシーン。

ここは社員役・豊島晴香さん、ミキ役・鈴木睦海さん、夫のタケシ役・畠山君に全任せ。

豊島さんは、カットをかけなければ、延々とリアルな芝居をし続けてくれるのではないか、というような懐の深い方で、

ほぼ即興で漠然としたイメージを伝えただけでも、

「間を詰めるために何か言わなきゃ」感も一切見せない。相手が何言っても大丈夫というような度胸の座り用で、ノープランの僕は甘えに甘えました。

NGなど特になく、でもあまりに勿体無いのでなぜか2テイクして、撮影は即終わりました。

即興演技余裕、プラス何より現場が明るくなる人で、これについては、天性のものだろうとは思いますが。

(豊島さん、加藤紗希さんのコンビで作る作品に、必ず滲み出ているユーモアもそのせいなのかも)


浅田麻衣さんと鈴木睦海さんの会社で(設定としては警察からの)電話を受けるシーン。

僕「画的にはなんてことない、意外な反応だけでリアルなショックを表現したいんです」と駄々っ子のように説明になっていない説明をしていただけなのですが、

浅田さんはただ「なるほど、なるほど」と頷いている。

撮影時になって動線を決めていく中で、

僕「電話を切って、ミキに耳打ちした後、何かこの机にくる理由が・・・」と言うと、

浅田さん「私、この机でコーヒー作ってて良いですか」とサラリとおっしゃって、実際そうしてもらうことになったのですが、

これはその後の「顔を見合わせる間」を、手を止めて表現するための逆算した演技プランなんだとわかって、これまた僕はただ「すごいな」と感動しました。

非常に感覚的だけど論理的、僕のアバウトなイメージを、具体的で些細な動作を入れることで汲んでくださる方です。


そして一人芝居の家のシーン、

僕のメモには特に「帰ってくる」くらいしか書いていませんでした。(雑!)

僕「ものすごくショックな時で泣かないとしたら、というか泣けないくらい呆気なくて現実感がなかったら、どうします?」

と鈴木さんに聞くと、

鈴木さん「うーん、何か食べたりしますかねえ」

畠山君「食パンか何かは?」

ということで、僕はとっても面白いと思い、そのままお願いすることにしました。

(余談ですが、撮影から半年ほど経って、日本劇場公開された『A Ghost Story』という映画に勝手に僕が思っている共通点がいくつかあって、

まさに夫が亡くなった後、妻がパイを食べるシーンがあって「うわっ、万国共通だ、すごい!」と、思わず劇場で声を出しそうになりました。とても面白い映画でした)

ちなみに、シナリオ時点で、ラストシーンが過去の回想なのか、それともタイムスリップしているのか、ぼんやりしていました。

僕はどちらかと言えば「ま、後者でもいいかな」くらいで、タケシを見送るというラストは書いてあったものの、

「正直、タケシを呼び止めたり、どんな反応をしてもいいです」とざっくりいい加減に言っていたと思います。

僕には正解がわからなかったのです。夫に冷たくしすぎると、ストーリーを押し付けている気がするし、しかし夫を呼び止めるまでいくのか・・・。

そんな風にぶん投げられても困るだろうとは思うのですが、でもぶん投げていました。

鈴木さんはほとんどをシナリオそのままにしながらも、「冷たすぎですか」「ちょっと愛の方にいきすぎですか」など、すごくバランスを気にされていました。

どちらかわかりやすくしたくない、というアイデアをすごく汲んでくれていたのです。

結果、ラストは夫を見送った後、よく見ると目がほんの少し迷いを見せる、というものになっていました。

(僕は撮影時カメラ横に立てなかったので、編集時に気づきました)

僕はここで「冷たい」と「不思議と情を感じる」という、人によって全く違う感想をもらうことができたと思っています。

僕の心無さが、鈴木さんのバランス感覚で、見る人によって、ニュートラルに感じ方が別れるものにできたのではないか。

『RIP』が僕にとってお気に入りの作品になったのはこのためです。


夫の友人・工藤役の高橋隆大さんは、事前に一度お会いして衣装やイメージをお伝えしました。

高橋さんの登場シーンは3つ。

①昼間のミキとの会話

②車に案内するセリフなしのカット

③河原

で、スケジュールの都合上、段取り時間が短いためカッチリと事前に動きを僕の方で決めたのが①、それ以外の②と③に関してはその場で初めて段取りでした。

隆大さんは、かなり細かく決めた①の動きを(タバコを咥える、やめて歩く、などの細かいところまで)、

最初から完璧に、かつ動線を「動かされている感じ」が全くしないようやってくれました。

②は、僕が思いつかず、適当に「あ、ここに落ちてるボールで遊んだり・・・ちょっと気まずい感じで・・・」

とか、ぼんやりお願いしても、

隆大さん「はい、了解です」と一言。

いきなり回してみると、これまた完璧で、というかむしろものすごく良くしていただき、我ながら大好きなカットになりました。


畠山君はツーとカーというか、僕のイメージのそのままをやってくれて、それに居てくれたおかげで楽しく撮影できたのでした。

持つべきものは尊敬できる友人です。

友人といえば、今回もスタッフは友人たちに全部助けてもらい、返すことのできない恩のコンボゲージがさらに溜まったのです。

「ぐちぐちと偉そうにダメ出ししていた自主映画」を結局やってんじゃん、そういうことです。

おかげで2日間の撮影はスムーズに終わり、撮影終わりで何人かと朝まで飲みました。

僕は湧き上がってくる「モノローグシーン、予定通りなるべく簡素に撮ったものの、本当に形になるだろうか?」という今更な不安を薄めようと、さらに飲んだのでした。


(次は、書くならポスプロ、というか音楽か)


以下の写真は百々君が撮影時に撮っていてくれたもの。

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株式会社DrunkenBird

百々保之